日記

2020-12-20 10:00:00

#92 Hop Schema 017 Cold Side IPA / #93 Hop Schema 016 Hot Side IPA「ドライホッピング VS 熱麦汁浸漬」

【12/20(日) 新作リリース!!】

 

二種同時リリース!

Brewing Labが定期的に行っている対照実験醸造です。

 

Batch #93 – Hop Schema 018

「Hot Side IPA」

-----Style : IPA

-----ABV :6.0%

-----IBU :36

 

Batch #92 – Hop Schema 017

「Cold Side IPA」

-----Style : IPA

-----ABV :6.7%

-----IBU :25

 

 極力同じ醸造条件で、同種同量のホップ(Mosaic)の投入スケジュールだけを変えた二種のIPAです。Hot Side IPAではドライホッピングは一切行わず、煮沸中~冷却前の熱麦汁にのみホップを投入しました。Cold Side IPAでは熱麦汁でのホップ使用は最低限にとどめ、ほとんどをドライホッピングで使用しました。IPAのホップフレーバーを由来別に楽しめる飲み比べ企画です。ホップが好きなら体験必須!

 以下、詳細レポートです。完成ビールの評価は大部分が主観によります。また、後半に行くにつれて内容が専門的になります。興味のある方はどうぞ。

 

 

「Hot SideとCold Sideそれぞれに由来するホップフレーバーの差異について、及びドライホッピングが発酵状態にもたらす影響事例の報告」

 

【背景・狙い】

 ホップから得られるフレーバーは麦汁やビールへの投入タイミングによって異なります。一般的に、苦味をつけるには麦汁煮沸の前半に、香りを残すには麦汁煮沸の後半にホップを投入します。特に香りを残すには、麦汁煮沸終了後から麦汁冷却までの間に投入します。鮮烈な香りを強調するには、麦汁冷却を経た酵母添加後、つまり発酵中や熟成中に投入します。

 麦汁冷却の前をHot Side、麦汁冷却の後をCold Sideと呼びます。Hot SideとCold Sideでは、ホップに熱が加わるか否かという違いがあり、期待する苦味や香りが大きく異なります。

 Cold Sideでホップを投入する手法は、ここではドライホッピング(以下DH)と考えて構いません(※)。最近のIPAのほとんどはDHを駆使した造りになっています。言い換えれば、DHをしないIPAのレシピはあまり見かけません。

 とはいえDHだけでIPAのフレーバーを組み立てることは稀であり、多くのレシピでHot Sideでもホップを投入しています。よって「〇〇 DH IPA」のような謳い文句の商品であっても、その全体的ホップフレーバーはHot SideとCold Sideの双方に由来するフレーバーの組み合わせである可能性が高いです。

 そこで本企画では、IPA一般のホップフレーバーの由来を、Hot SideとCold Sideに分解して認識できるようになることを狙いとします。そのための手法として、① Hot Sideだけで大量のホップを投入したIPAを造り(Hot Side IPA)、そのフレーバーを確認します。② そのIPAと極力同じ醸造条件で、同種同量のホップをCold Sideでメインに使用したIPAも醸造し(Cold Side IPA)、①のHot Side IPAと比較します。

 その他、DHの有無による発酵状態の違いなど、気が付いたことがあれば共有したいと思います。

(※) Cold Sideでホップを投入する手法の全てがドライホッピングと呼ぶわけではないと考えています。例えば水蒸気蒸留法で得たホップオイルは、ホップを加熱した産物であり、それをCold Sideに投入することをドライホッピングとは呼ばないと考えています。

 

【レシピ要点】

 繰り返しますが、Hot Side IPAとCold Side IPAではホップの投入スケジュール以外は極力共通としました。つまり、使用原料(麦芽、米麹、ホップ、酵母、水)の種類と量、熱トルーブ除去までの麦汁仕込み工程、初期比重、発酵温度などは共通としました。

 相違点であるホップの投入スケジュールは具体的に下記の通りにしました。どちらも煮沸終了時の麦汁の液量は約230L、比重は1.055でした。IBU寄与は独自手法で計算しました(※)。

 ホップには2019年収穫のMosaic(α酸12%)のみを使用しました。Mosaicはその名の通り様々なフレーバーを持ち、多様な用途で使えるマルチパーパスホップとして定評があるからです。

 

〇ホップ投入スケジュール

 

〈# 93 Hot Side IPA〉

麦汁煮沸開始時 100g(IBU寄与9)

麦汁煮沸終了15分前 250g(IBU寄与16)

麦汁冷却直前(80℃) 1800g(IBU寄与11)

発酵最盛期 0g(IBU寄与0)

発酵終了直前 0g(IBU寄与0)

総量 2150g(IBU 36)

 

〈# 92 Cold Side IPA〉

麦汁煮沸開始時 100g(IBU寄与9)

麦汁煮沸終了15分前 250g(IBU寄与16)

麦汁冷却直前(80℃) 0g(IBU寄与0)

発酵最盛期 1300g(IBU寄与0)

発酵終了直前 500g(IBU寄与0)

総量 2150g(IBU 25)

 

(※)Hot Side IPAのホップ投入方法について補足です。麦汁冷却直前の80℃ホッピングは、ワールプールで熱トルーブを除去してから、麦汁をロイタータンに移してホップを15分間浸漬する方法で行いました。80℃のα酸利用率はGlenn Tinsethの式をベースに、ペレット補正などを加え、15分間ボイル時利用率の15%と仮定(John J. Palmer:How to Brew Fourth Edition p.72)して計算しました。

 

【完成ビールの評価】

 比重とアルコール度数以外の項目は官能評価によります。また、テイスティングはブラインドで行ったわけではありません。よって以下の評価には主観的先入観が大いに含まれることは否定しません。是非飲み手の方からの感想を多くいただきたいと思います。

 

〈# 93 Hot Side IPA〉

 

最終比重(実測)1.010 [初期比重(実測)1.055]

アルコール度数(計算)6.0%

発酵終了までに要した日数 10日間

 

〇外観

SRM (目視) 7、非常にクリア

 

〇香り

全体的香りレベル ミディアムロー

フルーツジャム、アールグレイティー、モルトのカラメル感が強調、メロンソーダ、温泉様硫黄匂

 

〇味わい

体感IBU 40

苦味と均衡するパンのような甘味

 

〈#92 Cold Side IPA〉

最終比重(実測)1.005 [初期比重(実測)1.055]

アルコール度数(計算)6.7%

発酵終了までに要した日数 14日間

 

〇外観

SRM (目視) 7、非常にクリア、Hot Side IPAと差異なし

 

〇全体的香りレベル ミディアムハイ

冷凍ベリーミックス、花屋さん、洋ナシやピーチ、ココナッツ、カカオやチリのような青臭さ、オニオンスライス、ゴムタイヤ

 

〇味わい

体感IBU 40

Hot Side IPAと同程度の苦味だが持続性とグラデーションに欠ける

口の渇きを伴う樹脂感

苦味に対して弱いボディ

 

【考察的コメント】

 

〇香り

 Hot Side IPAはジャムや紅茶のような加熱加工食品の香りがする一方、Cold Side IPAにはフルーツや花そのものや、オニオンスライスといった生の素材感があります。ホップであれフルーツであれ、成分レベルで見れば同様の熱変化が起きているのかもしれません。

 最近のIPAからやけにココナッツフレーバーがすることは前にも書きましたが、これはCold Side IPAで特に強く感じられました。酵母によるラクトン系化合物の生成であると予想しています(1)。本比較醸造により、その前駆体またはエンハンサーはCold Sideでのホップ投入で増加する傾向にあることが示唆されました。

 また、Cold Side IPAからはグラスに注いだ瞬間カカオやチリを彷彿させる青臭さが感じられますが、一瞬で揮発します。個人的にMosaicからこの種の香りを感じるのは意外でした。

 Hot Side IPAにはネガティブ要素として微かに温泉様の硫黄匂が残りました。発酵条件の制御誤差もあるかとは思いますが、当醸造所では概してDHした方が硫黄は残りにくい傾向にあります。原因として、発酵中DHで発生する激しいガスに硫化水素を洗い出す効果があることなどが指摘されています(2)。

 

〇味わい

 予想通りなのは、Cold Side IPAの力強い樹脂感です。これがいかにもIPAらしい味わいを醸している一方で、口の渇きを伴う渋味を不快に感じる人もいるでしょう。一方のHot Side IPAではその樹脂感が程よく、比較的滑らかな口当たりを感じます。この違いが生じるメカニズムは、タンニンとタンパク質の温度による反応性の違い、酵母によるミルセンの吸着(3)などから説明できると思いますが、複雑なので割愛します。

 予想に反したのは、苦味の体感強度に顕著な違いがないことでした。レシピ段階の独自計算ではHot Side IPAでIBU36、Cold Side IPAでIBU25でしたが、テイスティングでは両者ともにIBU40程度に感じました。これに関しては実測しなければなんとも言えないことはわかっていますが、とりあえず話を進めます。

 Hot Side IPAではまずまずのIBU評価ができているように思います。ケトルで加えたホップを取り除いてから最後の80℃ホッピングを行ったのが功を奏したことと、α酸利用率の計算に用いた仮定(前項レシピ要点注釈欄)(4)が悪くなかったのだと思います。

 Cold Side IPAでは、DHのIBU寄与を0と仮定しましたが、これが非現実的だったのでしょう。Cold Sideにおけるα酸のイソ化が無視できない可能性があります。また、α酸やβ酸は酸化によっても水溶性の苦味物質に変化するとの情報があります(5)。

 

〇外観について

 Hot Side IPAとCold Side IPAは、両者ともに非常にクリアな外観で差異は認められませんでした。過度なDHはビールに濁りを生む(6)とされますが、条件によってはDHをしてなおかつ無濾過であってもクリアな外観のIPAは造れるようです。

 

〇発酵状態の差異について

 DHによる発効速度や発酵度の上昇はブルワーの間でよく議論される話題です。少なくとも当醸造所ではDHによる発酵度の上昇はほぼ毎回起こりますし、本比較醸造でもはっきりと差がありました。これに関して既往研究で示されている要因は、

(a) ホップの持つ糖化酵素による非発酵可能性糖の分解(ホップクリープ)(7)

(b) 固形物であるホップの添加により液中二酸化炭素が放出され、酵母増殖が促進される(2)

 参考文献(2)によれば、(a)よりも(b)の可能性が有力であるとされていました。ただし(2)で示されていたのは発酵速度の上昇のみであり、発酵度の上昇については示されておらず、依然としてホップクリープの影響は否定できないように思います。

 個人的にはDH時の酸素巻き込みによる酵母増殖や、ホップタンニンによるビール中溶解タンパク質の捕捉減少などは影響ないのかと思いましたが、これといって参考文献が見当たらないので、影響としては無視できるほど小さいのかもしれません。

 

【まとめ】

 本企画で、ホップフレーバーの由来を分解識別できるようになることを目的として、同種同量のホップを使い、Hot Sideのみでホップを使用したIPAと、主にCold Sideでホップを使用したIPAを醸造し、そのフレーバーを比較しました。多分に主観的ではありますが、以下のような気づきがありました。

 ・Hot Sideホップはジャムや紅茶のような香りに寄与し、Cold Sideホップ(ドライホッピング)はフルーツや花そのもののような生の素材感に寄与することが確認できました。

 ・最近のIPAからよく感じられるココナッツ様フレーバーがドライホッピングに由来することを支持する醸造例を一つ得ました。

 ・Cold Sideホップはビールに力強い樹脂感を与えることが確認できました。

 ・Hot Sideホップに由来する苦味の体感値はレシピ段階で良く評価できる可能性があります。一方で、Cold Sideホップに由来する苦味の評価は今後の課題として挙げられます。

 また、ドライホッピング(DH)の有無によって以下のような違いがあり、(2)や(7)で示されるような既往研究との一部合致が確認されました。

 ・DHをしたCold Side IPAでは硫黄系オフフレーバーが低減されました。

 ・DHをしたCold Side IPAでは発酵の長期化と発酵度の上昇が確認されました。

 

【参考文献】

(1) R. A. HOTCHKO, T. H. Shellhammer:A-36 A survey of common lactones found in commercially produced dry-hopped beers

A-36 (asbcnet.org)

(2) 土屋友理・太田拓:ビール発酵液中へのホップ添加がもたらす酵母とホップの相互作用 日本醸造協会誌Vol 115 8月号

(3) 村上敦司:「日本のホップ品種」とそれらを生かしたビール造り、とその波及効果 日本醸造協会誌Vol 115 4月号

(4) John J. Palmer:How to Brew Fourth Edition p.72

(5) John J. Palmer:How to Brew Fourth Edition p.64

(6) Stan Hieronymus : For the Love of hops p.232

(7) Arnbjørn Stokholm and Thomas H. Shellhammer:Hop Creep – Technical Brief

https://www.brewersassociation.org/.../hop-creep.../