日記

2020-07-10 10:00:00

#71 Untitled 003 Ginger Cardamom IPA「香りの掛け算は難しい」

【7/10(金) 新作リリース!!】

 

*今回のリリースはCRAFT BEER BASE BRANCHからになります。

Batch #71 – Untitled 003

「Ginger Cardamom IPA」

-----Style : Spiced IPA

-----ABV : 6.5%

 

 

 通常のビール造りでは用いられない原料の使用や製法を試みる醸造シリーズ「Untitled」。3作目は、麦汁冷却直前にフレッシュジンジャーとカルダモン、及びアマリロホップを投入し、発酵中に大量のモザイクホップを投入したスパイスIPAです。スパイスをフィーチャーしたビールの仕上げに、あえてドライホッピングを施すことで、支配的な風味をホップに帰着させたことが一般的なスパイスビールとは異なるポイントです。結果、通常のIPAファンにも問題なく受け入れてもらえそうな風味ではありますが、飲めば飲むほどあまり経験したことのない風味が感じられるビールに仕上がりました。弊社ボスはこの風味をアジアンビューティと表現しました。確かに、どことなくオリエンタルな雰囲気が漂います。これがスパイスに由来していることは、製法上ほぼ間違いないとは思いますが、単なるジンジャーとカルダモンの足し合わせでは説明できない、不思議な一体感のある風味がこのビールからは感じられます。

(以下、特に売り文句はありません)

 この不思議な感覚はちょうど、初めて食べる種類の柑橘を食べているときに、まさに柑橘の風味を感じているにも関わらず、今まで食べたどの柑橘とも違う風味も同時に感じていることに似ています。どの種類の柑橘にも共通して含まれ、かつ大半を占める香気成分はリモネンという物質です。このリモネンこそが、全体的な柑橘らしさを形成しますが、個々の柑橘の風味を特徴づけるのは、その他の少量成分です。この少量成分の組み合わせや濃度が、柑橘の種類毎に異なるため、それぞれ異なった風味がします。また、この少量成分は単体で取り出して匂ってみても、それが含まれる柑橘らしさを感じることは稀です。例えばユズなら、香気成分の80%がリモネンで、その他に微量ずつ含まれる、リナロールやチモールなどの成分の組み合わせがユズらしさを形成します。このリナロールとチモールはそれぞれラベンダーとタイムの主成分です。ラベンダーやタイムからユズを感じることは普通ないでしょうし、反対にユズからラベンダーやタイムの香りを嗅ぎ分けることも難しいと思います。しかし、80%のリモネンと、少量のリナロールやチモール、他の成分が組み合わさるとユズになります。

 今回のビールに話を戻すと、主な風味を形成しているのは、ホップの香気成分の大半を占めるミルセンなどのテルペン系化合物だと考えられ、これが樹脂や柑橘皮のようなIPAらしさに寄与しています。ピーチやグアバのようなフルーティさも、主にドライホッピングに使用したモザイクホップに由来していると思われます。やはり支配的なのはホップです。しかし、ホップだけでは説明できない、このビールのオリエンタルな雰囲気に、ジンジャーやカルダモンが果たしている役割は決して無視できないでしょう。確かに、このビールから感じられるジンジャーのニュアンスはわずかで、カルダモンに至っては言われても探せないレベルではあります。しかし、このスパイスIPAは、基本原料だけで造った通常のIPAでは経験したことのない風味がします。これは、ユズにおいて支配的なのはリモネンであって、その他の成分の香りは嗅ぎ分けられないほどわずかであるにも関わらず、少量成分の組み合わせがユズに独特の香りを形成しているのと同様のことが起きているように思われます。

 CBB Brewing Labでは、度々ハーブ&スパイスを使ったビールを醸造していますが、今回のような使い方はあまりしてきませんでした。というか、このような掛け算的発想は非常に難しいので、今回はまぐれなのですが、少しだけコツをつかんだような気もします。

 最近リリース文を書きすぎてしまいます。読まずにスクロールするだけでも疲れると思いますので、後日Brewing Labだけのブログを開設予定です。