日記
#108 SRM 30↑008 Porter / #109 SRM 30↑009 Stout「比較醸造:同種同量の原料を使用したPorterとStout」
【5/1(土) Newリリース!!】
二種同時リリースです。
今回は本店BASEから「ボトル」でのリリースとなります。
Batch #108 – SRM 30↑008
「Porter」
---Style : Robust Porter
---ABV : 6.1%
Batch #109 - SRM 30↑009
「Stout」
---Style : Dry Stout
---ABV : 5.0%
同種同量の原料(pH調整剤は除く)を使ってポーターとスタウトを造り分けてみました。ポイントはポーターにおいて「酸味と発酵香」を上手く醸し出す造りを意識したことです。逆にスタウトではこれらの風味を抑えて焦げ感を引き立てる造りにしました。よく言われるローステッドバーレイ(真っ黒に焦がした大麦)を使用しているかどうかという違いではありません。ローステッドバーレイはどちらにも使用しています。
ポーターとスタウトはどちらもイギリス周辺を発祥とする黒系ビールです。スタウトはポーターから派生したといわれますが、両者の違いを説明するのは実に難しいです。醸造所によって味わいや解釈は様々ですし、文献によって語られている歴史も異なるからです。
それらの解釈の中でも、僕が最もロマンを感じる話を紹介しておきます。今回の比較醸造において「酸味と発酵香」に着目した理由でもあります。
それは「現代のポーターとフランダースオールドエールが共通の祖先を持つ」というものです。
フランダースオールドエールは、ベルギーの東西フランダース州を発祥とする褐色のビアスタイルで、強い酸味を特徴とします。代表的な醸造所は西フランダースのRodenbachです。Rodenbachの銘柄の多くは、熟成期間の異なるビールをブレンドして造られています。
このフランダースオールドエールとポーターが結びつくことを支持する歴史として、Rodenbachの実質的始祖Eugene Rodenbach(1850-1889)が、イギリスでビールのブレンドや熟成の技術を学んでいた(参考は輸入元HPなど https://www.konishi.be/brewery/rodenbachbrouwerij)
ことが挙げられます。またこれとは逆に、18世紀のイギリスの醸造家たちがポーターを発展させる過程で、フランダースの醸造技術を取り入れて若いビールと熟成の進んだビールを同量ずつブレンドさせた、という記録もあります(ティム・ウェブ/シュテファン・ボーモン『世界のビール図鑑』)。
そういえば、ポーターにまつわる有名な逸話として、ポーターの原型はThree Treadsという古く酸っぱくなったブラウンエールと新鮮なブラウンエール、ペールエールを混ぜたビアカクテルであったことも見聞きします。この逸話はちょっと眉唾物ではありますが、なんとなくフランダースオールドエールとの関係性はほのめかされます。
以上のことから、歴史的なポーターにとって「熟成による酸味」が特徴的な要素であっただろうと思われます。
さらに、酸味が出るまで熟成の進んだビールには独特の発酵香があったことも想像できます。なぜなら、熟成中に酸味を付与するのは、乳酸菌などのバクテリアやブレタノマイセスなどの野生酵母だからです。特に、ブレタノマイセスに由来する「馬の毛布」のようなアロマは、伝統的で本格的なポーターの特徴香であるとすらいわれます(『Michael Jackson’s Beer Companion』など)。
(ベルギーのランビックのイメージが強いブレタノマイセスですが、実はその名の由来はBritish Fungusのギリシャ語訳だそうです。)
さて、このあたりの歴史を尊重すると、「スタウトと比較してポーターには酸味と発酵香が顕著である」という解釈が一理として挙げられます。これらの特徴は本来であれば、ブレタノマイセスによる長期間の発酵で達成するのが歴史に沿ったやり方ですが、簡易的には短期間の乳酸発酵やベルギー酵母を使用して表現するのも面白いかもしれません。しかしこれではスタウトと並べられる現代のポーターとは全く違うビールになることは目に見えています。
そこで今回は、スタウトがポーターから派生したというAサイドの歴史も尊重して、「同種同量の原料を使ってスタウトとポーターを造り分ける」こととしました。さんざんフランダースオールドエールとの関係性など書いておいてなんですが、今回の醸造では特殊な微生物や長期熟成を取り入れたわけではありません。飽くまでも今日におけるポーターとスタウトの枠内で行ったものです。
製法の違いや狙いについては表の通りなので割愛します。諸々の理由から、イギリス由来の原料をほとんど揃えることができなかったのですが、今回のポイントは本格的なイングリッシュスタイルのものを造ることではないので、その点ご容赦ください。
#107 QS 005 Rose Berliner Weisse「バラを使ったサワービール。ビアカクテルにどうぞ」
【4/16(金) Newリリース!!】
Batch #107 - QS 005
「Rose Berliner Weisse」
---Style : Specialty Berliner Style Weisse
---ABV : 3.8%
バラの花びらを使ったベルリナーヴァイセ(ドイツはベルリン発祥のサワービール)です(バラを使った意図は後述します)。そのまま飲んでも華やかで軽いスパークリングワインのようで面白いのですが、やはり酸味が強烈なので、本場ベルリンと同じようにシロップを加えて飲んでいただきます。
不思議なことに、無香のプレーンシロップを加えることで、なぜかバラの香りが引き立ちます。味覚への刺激をやわらげることで嗅覚に意識が向くという心理的な要因かもしれませんが、そうだとしても驚きの体験であることには変わりません。
プレーンシロップの他にも、もちろんフレーバーシロップやリキュールもおすすめです。写真ではミントシロップを加えていますが、バラとミントはハーブティーでも鉄板の組み合わせなので、そりゃあ美味しいです。
店頭でもなにかご用意できたらと思います。久しぶりのブルワリー公認ビアカクテル祭りの開催です!
さて、後述するといったバラを使った意図です。結果的にバラの「香り」は上手く残ったので、黙っていればいいことなのかもしれませんが、本当はバラの「色素」を残してピンク色に仕上げたかったんですよね。ローズティーにレモン果汁を加えると赤く発色する原理を応用して、麦汁の乳酸発酵でも同じことができないかなと思って。
ローズティーとヴァイツェンを混ぜて乳酸を垂らした事前実験では、乳白ピンクのなんとも可愛らしいものが出来上がり、かなり期待を膨らませていました。また、実際の麦汁仕込みでは、先にケトルで乳酸発酵させた麦汁を煮沸し、煮沸後にバラを漬け込むという方法を採ったのですが、そのときは赤く染まった麦汁が出来ました。なのに、いざ酵母を投入してアルコール発酵が終わると、赤色が消えて普通の小麦ビールの色になったという、、、。酵母による色素吸着なのか何なのか、詳しい原因はわかりません。
ビールとは関係ないですが、昔ビーツ(ボルシチに使われる赤い野菜)を混ぜたピンクのパン生地をベーキングパウダーで焼き膨らませたら、ビーツの色素が消えてしまった経験もあります。植物色素は奥が深い。
#106 Untitled 008 Wu-Xiang Red Ale「人気作につきリメイク!自家ブレンドの五香粉を使用したレッドエール」
【4/2(金) 新作リリース!!】
Batch #106 – Untitled 008
「Wu-Xiang (五香) Red Ale」
-----Style : Herb & Spice Beer
-----ABV : 6.2%
-----IBU : 30
中華料理に用いられる混合スパイス「五香粉(ウーシャンフェン)」を自家ブレンドして麦汁に漬け込んだレッドエールです。
(ホールスパイスを適度に粉砕して使用したので厳密には「粉」ではありません)
使用したスパイスは、
・ネパール山椒(ティムール)
・八角(スターアニス)
・肉桂(カシアシナモン)
・丁子(クローブ)
・Cascadeホップ
覚えている方もいると思いますが、2019年12月にも「Wu-Xiang Pale Ale」というビールをリリースしており、今作はそれを少しだけアレンジしたリメイク作です。レシピ発想の大枠は前回リリース時の投稿をご覧ください。
手前味噌ながら、スパイスの風味バランスがとても良く整ったレシピだと思います。独特の風味だが不思議と飲みやすい。食事との相性にも大きな可能性が期待されます。
実際、前作では多くの好評をいただいた感触があったので、1年以上ぶりの再醸造に至りました。他では味わえないビールです。是非お試しください。
それにしても、本作はUntitledシリーズの中では初めてのリメイク作となりました。Untitledシリーズではレシピ作成に当たって、Brewing Labの研究的アプローチを敢えて積極的には取り入れず、主観と直感を大事にしています。無題という意味のシリーズ名を与えたのはこの意図によります。
何が言いたいかというと、自分の感性に大きく頼って造ったビールが、リメイクをするほどの支持を得たという事実が非常に嬉しいということです。CBB醸造部では、今後このようなアプローチも主軸の一つにしたいと考えています。
#104 Lavender & Chamomile「CBB定番ビール第一号!それと、最近のホップ人気に対してちょっと思うこと」
【3/26(金) 新作リリース!!】
#104 Lavender & Chamomile
Style : Herb & Spice Golden Ale
ABV : 5.3%
花(ラベンダーとカモミール)を使った親しみやすいゴールデンエールです。
先月末のJapan Great Beer Awards 2021にて金賞受賞(Herb & Spice Beer部門)したところで新バッチが上がりました。いいタイミングです。
もう言い切っていいでしょう。CRAFT BEER BASEの定番ビールです。まだレシピ調整段階ではありますが、方向性はこれでいこうと思います。
なぜ花を使ったビールを定番に据えようと思ったか。それは、既存のビールファンだけではなく、これからビールに興味を持ち始める多くの方に手に取ってもらいやすいと思ったからです。
以前、Hop Schema Cascadeのリリース時にも書きましたが、最近は新しいホップ品種やその加工法・使用法が次々と開発されている状況です。この状況自体に否定的であるわけでは全くありません。むしろ、ホップ生産者やブルワーのたゆまぬ努力と、それに呼応してシーンを盛り上げるビアパブスタッフや飲み手の姿には感銘すら覚えます。
しかしながら、辞書を引いても意味がわからないようなホップの品種名や、解説なしに頭文字だけをとった専門用語が、ラベルやPOPに当たり前のように記されていて、それらが商品棚やメニュー表の約80%を占めているような状況は、客観的に見て異様と言わざるを得ません。これからクラフトビールの世界を覗きこむ人にとって、ともすれば入りにくい雰囲気が醸されている可能性はないでしょうか。
もちろん、これはわかる人にとっては楽しい雰囲気ですし、入門者をこの境地に誘ってあげることも僕たちの使命です。とはいえ、何か別の方法も同時に講じなければ、ビールのパブリックな魅力を伝え損ねている気がしてならないのです。
そこで「花」です。花はホップやハーブのファンでなくとも、大多数の人にとって「素敵な香り」という認識があると思います。また、花の名称を読んだり聞いたりしただけで、香りまでは想像できなくとも、色や景色は思い描くことができるでしょう。花が人の情緒に訴える力はかくも強く普遍的です。
以上がCRAFT BEER BASEとしての観点。個人的観点では、まあ、これは直ぐに理解してもらえなくてもいいのですが、そもそも僕は花もホップも、その他のハーブ&スパイスも(もしかしたら真っ黒に焦がした麦でさえ)、ビール醸造において「フレーバリング」という役割を持つ原材料として、ほとんど平等に見ています。そしてビールは歴史的にみても他の醸造酒よりフレーバリングの自由度が高い気がします。なので、ホップ以外のフレーバリング原材料を使ったビールがとりたてて特別だとは思っていません(もちろんそれがビールとして本質的な体を成しているのかは常に考えますが)。本作Lavender & Chamomileを定番ビールに据えたのは、単純に自分の考えを伝えやすいお気に入りのレシピだからという理由だったりもします。
話はそれますが、ラベンダーやカモミールもアロマ業界などではホップと同じように品種の違いが楽しまれています。本作Lavender & ChamomileがCBBの看板ビールとして定着したら、品種や加工形態を変えて遊ぶのも面白そうですね。Lavender(真正、水蒸気蒸留) & Chamomile(ローマン、乾燥ホール)みたいに。いや、これこそ敬遠されるか。
後半とりとめもなくなりました。これから長いお付き合いになるビールです。どうぞよろしくお願いいたします。
#105 BUD 8th Anniversary Hoppy Buddy「祝BUD周年。ちょっといつもと違う頭を使ってレシピを書きました」
【BUD周年祭のご案内、並びにリリース告知】
弊社飲食部門のエース
CRAFT BEER BASE BUD(大阪駅前第一ビル店)
は6周年をむかえます。
これもひとえに皆様のおかげです。最近では弊社の造ったビールをお求めにいらっしゃる方も少なくないようで、醸造部としても感謝が尽きません。
つきまして、ささやかながら(ご時世柄なおさらですが)、周年祭の開催を予定しております。日程は3/20(土),21(日)。詳細は下記URLからイベントページをご覧下さい。
https://www.facebook.com/events/330068328444623
そこで醸造部では、BUDメンバーのアイディア提供のもと、周年祭にリリースを合わせてビールを仕込みました。
#105「Hoppy Buddy」
ABV : 7.3%
Style : IPA
皆大好きIPA。取り立てて特別な原料を使ったりしたわけではない、直球のアメリカンスタイルIPAです。
しかし、造った側からすると、いつもとはだいぶ違う頭を働かせたIPAです。それは「第三者の飲み手への思いやアイディアを体現することに意識を向けた」という点においてです。Brewing Labの醸造の動機は多くの場合、「自分たちの興味のある原料や現象に対して何か取り組みをした過程で、面白いと思った発見や刺激を飲み手と共有したい」というものでした。
IPAを造るにあたりホップを例にとると、いつもなら「あるホップの面白さを引き出し、それを伝えるために適したレシピ」を考えますが、今回は「BUDメンバーのアイディアを形にするために選ぶべきホップの品種や使い方」を一番に考えました。
『ホップ「の」絵を描くのか』、『ホップ「で」絵を描くのか』という比喩ができるかもしれません。自分にとってこれはだいぶ挑戦のしがいがあることで、これまでのBrewing LabのHop Schemaシリーズで得た経験を総動員してレシピ作成に当たりました。正直上手くできたかはわかりませんし、上手くできたとしていつものIPAと劇的に味が変わるものでもないでしょう。しかしどうであれ、いつもとは発想の大きく異なるIPAには違いありません。
コロナ渦にのまれ、弊社においても、ボトルビールの販売開始や、タップルームの閉店とそれに伴うBASEやBUDでの自社ビール販売強化など、様々な流れがありました。これにより「ビール醸造」ということに対する考え方が会社的にも個人的にも変わってきています。
今回のIPAはその変化の一例です。これをBUDの6周年という機会にリリースできることをうれしく思います。周年祭でご用意する他社様の素晴らしいビールとともにお楽しみくだされば幸いです。